1 建築におけるキーワードとしての、「透明性」
問題の所在
昨今、ガラスを建築デザインに多用する傾向が強い。ひとつには、ガラスに関する材料としての進歩が寄与している。ガラスは、物があたったら割れてしまう、かよわい材料ではなくなり、構造的な部品にも使えるほどの強度をもちはじめた。
さらに重要なことは、ガラスという材料のもっている多義的な性質であろう。ガラスといえば後ろの物を透過して見せる、という性質が即座に頭に浮かぶが、それだけではない。ミースが指摘しているように、ガラスは光を強く反射する性質があり、大理石より硬質なイメージも与える。加えて、夜になって、背後の空間に照明がつけば、ガラスは視覚的に消滅してしまう。物理的にいっても、多義的な使い方ができるのがガラスという材料であり、この特性に建築家が感心をしめしているのである。
ところで、ここでとりあげるコーリン・ロウの古典的評論であるが、ガラスの特性である「透明性」について論じている。ただ、この評論が古典としての高い評価を受けている理由は、「透明性」の多義的性質を、上で述べたような自然科学的な側面だけでなく、思弁的な側面にまで拡張し、キュービズム絵画を具体例として説得的に論証している点にある。
美術評論というと、評論家の主観を、よくわからないポエティックなレトリックでつつむものが、あとをたたない。しかし、このロウの評論は、正反対である。きわめて整理された論理を用い、説得的に論じられている。
以下では、この評論を要約しつつ、さらにこの骨格を骨太に、とらえてみたい。
2 ロウ説の論証カード
2-1) 二重の透明性概念の意義
3 "Trasparency: Literal and Phenomenal"
3-1) "Mont Sainte-Victoire", Cézanne, 1904-06, Philadelphia Museum of Art
まず、近代絵画の父といわれるセザンヌの絵画を、例にとっている。セザンヌは後期印象派に位置するが、キュービズムへの橋渡しをする、という絵画史上の意味をもっている。この絵もそうであり、ロウは、とくに斜行グリッドと直行グリッドという二つのグリッドの混在、正面性などを指摘し、キュービズムの端緒であることを説明する。
さらに、グリッドで枠取られた面について、不透明な面と半透明の面があることに触れ、Kepesの透明性の定義と関連しているという。
"highly developed insistence on a frontal viewpoint of the whole scene, a supression of the more obvious elements suggestive of depth, and a resultant contracting of foreground, middleground, and background into a distinctly compressed pictorial matrix."
"Frontality, suppression of depth, contracting of space, definition of light and sources, tipping forward of objects, restricted palette, oblique and rectilinear grids, and propensities toward peripheric development are all characteristics of analytical cubism."
"On the one hand, an arrangement of oblique and curved lines suggests a certain diagonal spatial recession. On the other, a series of horizontal and vertical lines implies a contradictory statement of frontality."
3-2) 絵画空間での対比例
3-2-1) 例 1 Picasso (literal) vs Braque (Phenomenal)
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Picasso "Le Clarinettiste", 1911 | Braque "Le Portugais", 1911 |
3-2-2) 例 2 Delaunay (literal) vs Gris (Phenomenal)
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Delaunay "Les Fnêtres Simulatanées ", 1911 | Gris "Nature Morte", 1912 |
3-2-3) 例 3 Moholy-Nagy (literal) vs Leger (Phenomenal)
3-3) 建築における対比
3-3-1) 例 1 Gropius (literal) vs Le Coubusier (Phenomenal)
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Gropius "Bauhaus Dessau ", 1925-26 | Le Corbusier "Villa à Garches ", 1929 |